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和歌山地方裁判所 平成7年(ワ)232号 判決 1998年3月31日

和歌山市<以下省略>

原告

右訴訟代理人弁護士

冨山信彦

東京都中央区<以下省略>

被告

野村證券株式会社

右代表者代表取締役

右訴訟代理人弁護士

辰野久夫

右訴訟復代理人弁護士

藤井司

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は、原告に対し、一八三三万六三〇〇円及びうち一六八三万六三〇〇円に対する平成五年一月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告からワラントを購入した原告が、その際の被告の従業員の勧誘行為が不法行為にあたるとして、損害賠償(ワラントの購入代金一六八三万六三〇〇円と弁護士費用一五〇万円)を求めた事案である。

一  前提事実(争いのない事実又は弁論の全趣旨によって認められる事実)

1  当事者

(一) 原告X(以下「原告」という。)は、大正一四年生まれであって、石油の販売、海運業、倉庫業等を営むa株式会社(以下「a」という。)の代表取締役社長である。

(二) 被告は、有価証券の売買、売買の仲介等の業務を行う証券会社であり、和歌山市内に和歌山支店を有する。

(三) B(以下「B」という。)は、昭和五六年に被告会社に入社し、昭和六二年一一月から平成三年一一月まで被告会社の和歌山支店に勤務して、株式等の証券の取引を担当していた。

2  原告と被告とのワラント取引

原告は、Bの勧誘により、被告との間で、次のとおりのワラント取引をした。

(一) 神戸製鋼ワラントの購入と売却

原告は、昭和六三年一二月二日、保有していた三菱金属の株式を売却して、同月五日、神戸製鋼所の外貨建ワラント(数量二〇〇、三九二一万六〇〇〇円)を購入し、同年一二月九日、これを八七万一七九八円の利益を出して売却した(別紙ワラント売買一覧表番号1)。

原告は、昭和六三年一二月一二日、同ワラント(数量二〇〇、四一二一万五〇五〇円)を再度購入し、同年一二月一四日、四七万六三七九円の利益を出して売却した(別紙ワラント売買一覧表番号2)。

(この項のワラント取引を「本件(一)ワラント取引」という。)。

(二) 小松製作所ワラントの購入

原告は、平成元年一一月一四日、小松製作所の外貨建ワラントを購入した(数量四五、一六八三万六三〇〇円)(別紙ワラント取引一覧表番号14、以下「本件(二)ワラント取引」という。)。

右ワラントは、平成五年一月一二日、権利消滅して、原告は購入価格相当の損失を被った。

(三) 右のとおり、原告は被告とのワラント取引により、本件(二)ワラント取引のみをみれば、一六八三万六三〇〇円の、本件(一)、(二)ワラント取引(以下「本件各ワラント取引という。)を全体としてみれば、差し引き一五四八万八一二三円の損失を被った。

3  ワラントについて

ワラントとは、新株引受権付社債の新株引受権部分を表彰した有価証券であり、予め決められた権利行使期間内に、予め決められた権利行使価額を支払うことによって、予め決められた数の新株を取得できる権利である。

ワラントは、その価額は株式の数倍の速さで動くため、株式に比し、比較的少ない資金で株式に投資したと同様の利益を得られる、いわゆる投資効率の高い有価証券である。

しかし、他方、値下がりの幅も株式に比して大きいうえ、新株引受権を行使しないまま権利行使期間を経過すると、ワラントは無価値になるし、また株価がワラントの権利行使価額を下回り、権利行使期間に株価が権利行使価額を上廻る可能性がなくなった場合も、右期間経過前でも無価値となる。

また、外貨建のワラントの場合、その他に為替相場の変動による値動きも存する。

このように、ワラントはいわゆるハイリスク、ハイリターンの典型たる商品であり、投資者にとって投資効率の良い利益を得る可能性のある反面、場合によっては、投資額全額を失う可能性のある極めて危険性の高い商品である。

二  争点

1  本件各ワラント取引の際、被告の従業員であるBの原告に対する勧誘行為が不法行為(適合性違反、説明義務違反、断定的判断の提供)を構成するか否か。

2  損害額

三  争点1についての原告の主張

本件各ワラント取引は、次のとおり、Bの違法な勧誘行為によりなされたもので、Bの雇用者である被告は、本件(二)ワラント取引により原告が被った損害を賠償すべき義務がある。

1  適合性違反

ワラントは、他の証券投資における商品とは比較にならない独自のシステムと難解さ、投機性の高さを有し、また顧客の売買の相手方が証券会社であるという相対取引であるにもかかわらず、本件各ワラント取引当時、その特異な商品特性についての顧客への周知性は全く欠如していた。

原告は、本件各ワラント取引に至るまでの株式取引、信用取引の価格は大きいものの、自己の判断に基づく取引ではなく、営業社員が勧めるままの取引をしいていたにすぎず、株式取引に対する知識、経験はワラント取引を行うには不充分であった。

以上のようなワラント取引の性格、原告の知識、経験に照らせば、本件ワラント取引について、原告に適合性はない。

2  説明義務違反、断定的判断の提供

(一) 原告は、Bから、ワラントについて、「絶対に損のない商品。」と言われたため、転換社債のようなものと思って、神戸製鋼所のワラントを購入したものである。ワラントの危険性についての説明は、Bから一切受けていない。原告は、本件(一)ワラント取引の終了後、Bからの依頼によりワラント取引に関する確認書に署名捺印したことはあるが、これは取引終了後であって、形式的に必要であると思って署名捺印したにすぎず、その際ワラント取引説明書は、受取っていない。

本件(二)ワラント取引の際も、Bからワラントについての説明はなかった。

(二) 説明義務違反

ワラント取引の勧誘の際、説明義務を尽くしたといえるためには、取引成立前に、ワラントについてわかりやすい説明をすると共に、説明書を交付し、これに基づいて説明をする必要がある。また、行使価額、権利行使期間、為替相場の影響についても同様の説明をすべきである。本件各ワラント取引についてのBの勧誘行為は、右(一)のとおりであり、右の説明義務を尽くしていないことは明かである。

(三) 断定的判断の提供

Bは、「ワラント取引は絶対に損することはない。」と言って執拗な勧誘をしているが、これは、断定的判断の提供であって、違法な勧誘である。

四  争点1についての被告の主張

1  適合性違反について

原告は、昭和六一年から、被告をはじめ複数の証券会社と取引しており、取引内容をみても現物株、転換社債のほかに株式の信用取引も大きな単位で行っていて、証券取引について相当な知識、経験を有しており、理解力も十分であった。

そして、銘柄等にも十分な関心を示して、担当者から勧誘されてもこれを鵜呑みにせず、自ら納得しなければ購入しなかったのであり、自己の相場観で取引してきたのであるから、ワラント取引についての適合性は十分であった

2  説明義務違反について

Bは、前から原告が好んで取引していた鉄鋼株の一つである神戸製鋼所の株価が上昇しそうな状況にあったことから、昭和六三年一二月二日、原告に対し、電話によりその旨伝えたところ、原告もその相場観に同意した。当時株式相場は同年一一月頃から値上がり基調が続いていた。

そこで、Bは、原告に対し、「もし神戸製鋼所株がこれから上がると考えるのであれば、ワラントの方が良いのではないか。」と述べて、ワラントへの投資を提案したところ、同人から「ワラントとはどういうものか。」と質問されたため、ワラントは予め決められた価格で株式を購入することができる権利であって、その権利を売買するものであること、ハイリスク、ハイリターンの商品であり、価格は株価に連動するが、それよりも値動きが大きいこと、行使期間が決まっていて、それまでに権利を行使するか売却しないと、最後にはゼロとなること、ドル建てなので、為替の変動にも影響されること等を説明した。原告から「ゼロになるような商品で、大丈夫か。」と尋ねられたため、行使期限までにまだ余裕があるから、神戸製鋼所の株価が今後上昇すると考えるのであれば、ワラントを買っても良いのではないかと勧めたところ、原告は神戸製鋼所ワラント一〇〇ワラントの購入を注文した。

もっとも、その際、原告が、「手元で保有している三菱金属五万株を売却して、その代金でワラントを買う。」と述べたため、Bは、当日は、三菱金属株の売却のみを発注し、翌営業日である同年一二月五日(月曜日)午前、ワラントの単価を原告に連絡すると共に、三菱金属の株券が当日確実に入庫されるのを確認して、神戸製鋼所ワラント一〇〇ワラントの購入を発注した。

そして、同日午後、同ワラントが値上がり始めたため、その旨原告に連絡して、さらに一〇〇ワラントの追加購入を決め、これを発注した。

こうして、原告は、同年一二月五日、被告から神戸製鋼所ワラント二〇〇ワラントを合計三九二一万六〇〇〇円で買付け、これを同年一二月九日に四〇〇八万七七九八円で売却して、約八七万円の利益を得た(別紙ワラント売買一覧表番号1)。

その後、神戸製鋼所ワラントが少し値下がりしたため、Bは、同月一二日、原告に対し、同ワラント二〇〇ワラントを再度購入するように勧めた。この際、Bは、一二日の買い単価(三三・五〇ポイント)が九日の買単価より値下がりしていることを説明するため、外貨建ワラントの買単価が売単価より一・五ポイント高く、したがって、九日の買単価は三四・五〇ポイントであったことを説明した。右勧誘により、原告は、同年一二月一二日、神戸製鋼所ワラント二〇〇ワラントを単価を三三・五〇ポイントで購入し、同月一四日、これを単価三四ポイントで売却して約四七万円の利益を得た(別紙ワラント売買一覧表番号2)。

Bは、昭和六三年一二月一六日頃、野村証券作成にかかる「ワラント取引説明書―その特長と仕組みについて」などを持参してaの事務所を訪問し、原告に対し、右説明書の内容を読み上げながら、ワラントの商品内容を再度説明した上、同説明書末尾に綴られているワラント取引の確認書を切り離して署名捺印を求め、右確認書を徴求してその残りを原告に交付した。

原告は、その後、被告との取引をほとんど行わなかったが、aや家族の名義で、他の証券会社と頻繁にワラント取引を行うようになった。

Bは、平成元年一一月一四日原告に電話して、小松製作所のワラントの購入を勧誘したが、その際、ワラントがハイリスク、ハイリターンの商品であることを再確認させたうえ、同ワラントの行使期日、行使価格を具体的に述べて購入を勧誘した結果、原告は右ワラントを購入するに至ったのである(本件(二)ワラント取引、別紙ワラント売買一覧表番号14)。

以上のように、Bは本件各ワラントの取引に先だって、ワラントの性格や危険性について十分に説明しており、ワラント取引説明書も交付しているから、説明義務違反はない。

3  断定的判断の提供について

Bが、本件ワラントの勧誘をした経緯は、右2のとおりであって、ワラントについて、「絶対に損のない商品である」などとは言っていない。

第三争点に対する判断

当裁判所は、原告の請求は失当であると判断する。その理由は次のとおりである。

一  事実経過

前記前提事実に、証拠(甲一の1、2、六〇、六一の1、2、六二、六三の1、2、六四の1ないし3、六五、六六、七〇、乙一、二、九、四の1ないし3、八の1、2、一一ないし一六、一八ないし二七、四七、証人B、同C、原告本人、弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認められる。

1  原告について

原告は、aの代表取締役社長であるが、平成元年当時、石油商業組合等の団体役員、自動車販売店等の会社役員をも兼務し、経済人として幅広く活動すると共に、個人でも億単位の金融資産を保有していた。そして、石油業界関係の新聞のほか、複数の日刊紙を定期購読し、景気の動向等、経済界の状況については把握につとめていた。

2  ワラント取引以前の原告の証券取引の経験

(一) 原告は、昭和六一年八月まで、証券取引の経験はなかった。

(二) 被告との取引

原告は、同月三〇日、被告において新規に開設した原告名義の取引口座で石川島播磨重工株を現物取引で購入し、以後、本格的に証券取引を始めた。そして、昭和六一年九月には、信用取引口座を開設するなどして積極的に取引した。

右取引開始後、昭和六二年六月までの間、株式の現物取引により一四〇〇万円を超える利益を、株式の信用取引により五〇〇〇万円を超える利益を得た(いずれも未決済分を除く。)。また、新規発行の転換社債一銘柄でも約五三九万円の利益を得た。

他方、現物取引により、昭和六二年二月二七日、同年三月四日に購入したNTT七〇株や信用取引で購入した神戸製鋼所株(昭和六二年二月二八日購入)及び川崎重工株(昭和六二年五月六日購入)各一〇万株等が値下がりして、多額の評価損が生じた。

そのため、原告は、昭和六二年六月一〇日以後、被告での新たな取引をいったん中止した。

(三) 日興証券との取引

原告は、右以降は、以前に新規発行の転換社債で利益を得たことのある日興証券で取引することとし、同年七月一日以降、同証券において、活発に株式の現物取引、信用取引を行った。

(四) 大和証券との取引

また、原告は、昭和六二年八月からは、大和証券においても、a名義で、株式の取引(東京放送とキャビンの公募株の購入、三菱重工株五万株、三越株三万株等の購入)を行った。しかし右の取引で多額の評価損が生じたため、昭和六三年四月二一日以降、同証券との取引を中止した。

(五) Bの勧誘による被告との取引の再開

Bは、昭和六二年一一月に和歌山支店に転勤し、前任者から原告を顧客として引き継いだ。Bは、原告を訪問したり、電話により、株式取引をしきりに勧誘した。

これに対し、原告は、なかなか被告との取引再開に応じなかったが、Bの「絶対に儲かる。」との勧誘により、昭和六三年二月二九日以降、被告との取引を再開して、同日に新日鉄一〇万株、同年三月二日に東芝ケミカルの公募株を現物取引で、同年三月七日にはNKK株一三万株等を、信用取引によりそれぞれ購入し、約一か月で、右新日鉄株と東芝ケミカル株で約四七〇万円、右NKK株で約二〇万円の利益を得た。

原告は、昭和六三年三月二四日、当時の被告の和歌山支店長であったD(以下「D」という。)とBから、「儲けてもらうようにするから、野村証券(被告)の株式を買ってもらいたい。損することはない。」旨の勧誘を受け、支店長が同席した上での勧誘であったことから、右取引に応じ、原告名義で野村証券の株式三万株を購入した(購入代金約一億二九一七万円)。次いで、同月三〇日には王子製紙株七万株を信用取引、現物取引双方で、同年四月一日にはニチレイ株一〇万株を信用取引で、それぞれ購入した。しかし、右購入した野村証券株は値下がりし多額の評価損が生じたため、同年五月一一日株券の引き渡しを受け、また、右王子製紙、ニチレイ株については、差引合計八五〇万円余りの損失を被って売却した。

原告は、このように損失を被るようになったので、昭和六三年五月一一日、被告での取引を再び中止した。

(六) その後、原告は昭和六三年五月以降は、日興証券のみで取引を行っていた。

(七) これら原告の各証券会社での取引は、大部分が株式取引(現物及び信用)であって、それ以外の取引は極めて少なく、転換社債は、被告では新規発行四銘柄と既発発行一銘柄を取り引きしただけであり、日興証券でも少数の銘柄の転換社債の取引をしたのみであった。

3  原告と被告との本件(一)ワラント取引

(一) Bは、右被告株の取引等による損失を原告に詫びるとともに、「株で損失を生じさせたため、次は必ず株で儲けてもらう。」と言って、原告に対し、出勤前の朝に電話したり、aの事務所に赴いて、何度も株式取引を勧誘したが、原告はこれになかなか応じなかった。

(二) Bは、昭和六三年一二月二日、原告に対し電話で、神戸製鋼所の株式が上昇傾向にあるとして、絶対損のない商品として神戸製鋼所のワラントの購入をすすめた。原告は、Bが前から何度も、「株で損失を生じさせたため、次は必ず株で儲けてもらう。」といわれており、今回は「絶対損のない商品である。」といわば断言するような口調で勧誘されたこと等のことに加え、原告自身も従前から神戸製鋼所をはじめ鉄鋼株を好んで取引していた経験から神戸製鋼所の株式が値上がりすると考えたことなどから、右勧誘(神戸製鋼所のワラント一〇〇ワラントの購入)に応じることにした。

このときBは、原告の質問に応じて、ワラントは転換社債のうちの新株引受部分を分離したものであり、予め決められた価格により新株を買うことができる権利である、値動きが株式に比して激しいこと、新株の購入については行使期限があり、その期限をすぎると無価値になること等ワラントの概要につき説明した。もっとも、右説明は、その危険性よりも、絶対儲かる商品である等ワラントの有利性を強調した内容であった。

(三) 原告は、右の電話でBに対し、右ワラント購入代金に充てるため、自己が保管中の三菱金属株の売り注文をし、Bは、これを受け翌営業日である同年一二月五日(月曜日)午前、三菱金属の株券が当日確実に入庫されるのを確認して、右神戸製鋼所ワラント一〇〇ワラントの購入を発注した。

さらに、原告は、同日午後、同ワラントが値上がり始めたとの旨のBからの連絡により、さらに一〇〇ワラントの追加購入を決め、これを発注した。

こうして、原告は、同年一二月五日、被告から神戸製鋼所ワラント二〇〇ワラントを合計三九二一万六〇〇〇円で買付け、これを同年一二月九日に売却して、約八七万円の利益を得た(別紙ワラント取引一覧表番号1)。

(四) その後、神戸製鋼所ワラントが少し値下がりしたため、Bは、昭和六三年一二月一二日、原告に対し、同ワラント二〇〇ワラントを再度購入するように勧めた。右勧誘により、原告は、同日、神戸製鋼所ワラント二〇〇ワラントを単価を三三・五〇ポイントで購入し、同月一四日、これを単価三四ポイントで売却して約四七万円の利益を得た(別紙ワラント取引一覧表番号2)。

(五) Bは、右取引終了から間もない時期に、ワラントの特徴と仕組みや、ワラント取引の有利性と危険性等が記載されたワラント取引説明書を持参して、aの事務所に赴き、この前儲かったワラント取引についての書類であると言って、ワラント取引説明書に綴られているワラント取引確認書を切り離してこれに署名捺印を求めた。既に取引自体は終了していたので、Bにおいて改めてワラントの説明をすることも、また、原告からもその説明を求めることもなく、原告は右確認書に署名捺印した。Bは、右確認書を持ち帰ったが、ワラント取引説明書の本体は原告に交付した。

4  その後の原告と他の証券会社との取引

原告は、aの代表者として、a名義で、日興証券と別紙ワラント売買一覧表番号3ないし13記載のとおりのワラント取引をした。原告は、このほかにも、妻名義で日興証券との間で、子供名義で大和証券との間でワラント取引をしている。

5  原告と被告との本件(二)ワラント取引

その後の、平成元年一一月一四日、原告は、Bの勧誘に応じて、小松製作所ワラント四五ワラントを一六八三万六三〇〇円で購入した。

右の購入したワラントの価格は、その後の株式相場一般と共に大幅に下落して低迷し、原告はこれを売却したり権利行使することなく、権利行使期限を迎え、その購入金額全額の損失を被った(別紙ワラント売買一覧表番号14)。

6  右小松製作所のワラント購入後も、原告は、日興証券との間で、a名義で、別紙ワラント売買一覧表番号15ないし18記載のとおり、ワラント取引をしている。以上の事実が認められる。

なお、原告本人の供述中には、「昭和六三年一二月二日、Bからワラントの勧誘を受けた際、ワラントの内容については一切説明を受けていない。絶対損のない商品であるといわれたことから前の株取引の損失を埋めるため、転換社債のような元本の保証された損のない救済銘柄をもってきたと思った。ワラント確認書に署名捺印した際、ワラント取引説明書の交付を受けていない。」とする部分が存在する。しかし、原告のように経済人として成功を収めた程の人物が、証券会社の勧誘員から絶対損のない商品である等原告本人の供述にみられる勧誘内容のみで、その商品の内容も確認せず、また、救済銘柄であるかどうかの確認もせずに、たやすく、救済銘柄と信じて、勧誘に応じたとは到底考えられないこと、また、ワラント確認書に署名捺印した際は、既に、ワラント取引自体は終了しているのであり、改めてワラントの商品内容を説明する必要性はないのと同様、Bにおいて、ワラント確認書が綴られているワラント説明書をことさら原告に隠す必要性もなかったこと等や証人Bの証言に照らせば、原告本人の右供述部分は採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  右認定事実に基づき、検討する。

1  原告のワラント取引の適格性

前記認定の原告の経済人としての経験、資産状態、過去の株式取引の経験、本件ワラント取引に至る経緯等を総合すると、原告にはワラント取引の適格性がなかったとは到底いうことができない。

2  説明義務違反、断定的判断の提供について

前記認定の事実によると、Bは、本件(一)ワラント取引の勧誘に際し、原告に対し電話によりワラントの概要は説明しているし、また、取引終了後、ワラント取引説明書を原告に交付している。

もっとも、右勧誘に際し、ワラントの危険性よりも有利性の方を強調している面が存在し、また、ワラント取引説明書は交付しているものの、その内容を口頭では説明していないのであって、ワラント取引の勧誘に際し要求される説明義務としては、若干不充分な側面が存在する。また、Bにおいて「絶対損のない商品である。」等と断定的な判断の提供があったともとれる内容の話をしている。

しかしながら、本件(一)ワラント取引自体は、原告の利益をもたらしており、何らの損害を及ぼしていない。しかも、その利益は、別紙ワラント売買一覧表番号1の取引については、約三九二一万円の投資に対し、わずか四日間で、八七万円もの利益をもたらし、同番号2の取引については、約四一二五万円の投資に対し、わずか二日間で約四七万円もの利益をもたらしている。さらに、原告は、本件(二)ワラント取引をするまでに、a名義で日興証券との間で別紙ワラント取引一覧表番号3ないし13のとおりのワラント取引を行っており、同番号3のとおり約一六七七万円の投資で、わずか一三日の間で、投資額のほぼ二三パーセントにものぼる約三八七万円もの巨額の利益をえているのを筆頭に、権利消滅分を除けば、いずれの取引も短期間の間に、利益をもたらしている。原告は、これら取引をつうじて、ワラントとは値動きが激しく短期間の間に投資金額に比して巨額の利益をもたらす、いわばハイリターンの商品であると経験的にも完全に知ったものと認められる。そして、前記認定のとおり、原告が経済人として成功を収め、億単位の資産を保有し、石油商業組合等の団体役員として活躍していることや、原告の過去の株式取引の経験、Bから不充分ながらもワラントの概要の説明を受けていたこと等に照らせば、原告において、ワラントはハイリターンの商品である反面、巨額の損失、場合によっては投資金額全額の損失を被るおそれのあるあるハイリスクの商品であることを理屈だけでなく経験的にも完全に知ったと推認することができる(仮に、原告がこれに気が付かず、元本が保証されしかも大きい利益をもたらす商品(この世の中にかような商品があるはずがない。)であると信じる小人物であれば、経済人として成功をおさめることは到底不可能であったといえる。)。また、本件(一)ワラント取引の際、Bが述べた「絶対損のない商品である。」との言葉についても、従前Bから「儲けてもらうようにする。損をすることはない。」といわれて買った野村証券の株式が値下がりし損失を被っていること、その後のワラント取引等によりワラントはハイリスク、ハイリターンの商品であることを完全に知ったことなどに照らすと、原告は、Bの「絶対損のない商品である。」との勧誘は、いわば、セールストークにすぎず、Bの勧誘員としての個人的見通しを大げさに言っているにすぎないことを認識したと推認することができる。

以上の認定・判断に弁論の全趣旨を総合すれば、原告は、ワラントとは、巨額の損失、場合によっては投資金額全額の損失を被る虞のあるあるハイリスクな商品であることを完全に知ったうえ、その危険性に見合うだけの大きい利益を得ようとして、自己の判断により、本件(二)ワラント取引をしたと認めることができる。

したがって、Bにおいてワラント取引に際しての説明義務違反、断定的判断の提供があったことを理由とする原告の本訴請求は失当であることが明かである。

第四結論

よって、原告の請求を棄却し、訴訟費用は原告の負担とすることとして、この判決をする(口頭弁論終結日・平成九年一〇月一日)

(裁判長裁判官 東畑良雄 裁判官 和田真 裁判官 栁澤直人)

<以下省略>

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